爆発的天体は高エネルギー宇宙のエネルギー源なのか -IceCube実験による宇宙ニュートリノ多重事象観測の挑戦-

2025年04月09日

研究?産学連携

 宇宙では、超新星爆発注1)や超巨大ブラックホールによる潮汐破壊現象注2)など、多くの莫大なエネルギーを爆発的に放出する天体現象が起きています。これらの現象が宇宙の「エンジン」としてプラズマを光速にまで加速させる役割を持ち、宇宙線陽子や電子といった宇宙粒子に極めて高いエネルギーを与える主要なエネルギー供給源となっている可能性が議論されてきました。しかし、こうした爆発的天体現象が宇宙にどの程度存在し、宇宙全体の放射エネルギー総量を担っているのか否か、という重要な問いはいまだに解明されていません。
 188比分直播,足球比分网ハドロン宇宙国際研究センターの清水信宏助教らの研究チームは、宇宙ニュートリノ注3)の多重事象(multiplet)注4)を用いたユニークな新しい観測手法でこの問いの解明に挑みました。さらにニュートリノ観測と望遠鏡による可視光観測を組み合わせた「マルチメッセンジャー観測注5)で、より高感度な探査を実現する道筋を示すことに成功しました。宇宙線粒子のエネルギー供給元は、極めて稀にしか起こらない天体現象ではなく、ある程度普遍的に存在する現象であることを、ニュートリノ観測は示唆しています。本研究により、超新星爆発や潮汐破壊現象が高エネルギー宇宙のエネルギー供給源であるために満たすべき必要条件を初めて明らかにしました。
 本研究成果は、2025年3月10日に米国学術誌Astrophysical Journalに掲載されました。

 ■研究のポイント:
?IceCube実験は、2020年6月に同方向から3つのニュートリノが飛来する「三重信号 (triplet)」を含む興味深い多重事象を検出しました。
?ニュートリノ放射の起源は、非常に明るいがごく稀にしか起こらない天体現象ではなく、暗いけれどもある程度普遍的に起こる現象であることを示しました。
?ニュートリノ多重事象を引き起こす天体は、比較的近距離(典型的には15億光年以内)に存在する必要があります。この距離条件を利用することで、可視光などによる追観測で候補天体を絞り込むことが可能になります。

■用語解説
注1)超新星爆発(Supernova Explosion):大質量の星がその一生の終わりに起こす大規模な爆発現象。爆発時に大量のエネルギーと物質が放出される。
注2)潮汐破壊現象(Tidal Disruption Event, TDE):超巨大ブラックホールが近くの星を強力な重力で引き裂く現象。これにより、星の物質がブラックホールに降着し、高エネルギーの放射が観測される。
注3)ニュートリノ(Neutrino):これ以上小さく分けることができないと考えられている素粒子の一つ。電荷を持たず電子 の100万分の1以下の重さで、透過力が極めて高いため、遠方宇宙からも飛来できる。
注4)多重事象(Multiplet):ある時間幅(最大30日間)、同じ方向に2つ以上のニュートリノが観測される事象。タブレット信号(2つ以上の検出)、トリプレット信号(3つ以上の検出)などの総称。
注5)マルチメッセンジャー観測(Multi-messenger Astronomy):ニュートリノ、電磁波(可視光、X線、ガンマ線など)、重力波を組み合わせて天体現象を解析する観測手法。

  • 図:2020年6月に観測されたニュートリノ3重信号tripletの到来方向の分布図
    黄色い星印は検出されたニュートリノの推定到来方向、緑の部分はニュートリノ放射天体が存在する方向の確率分布を示している。